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意匠権侵害物語(1)

本稿は、平28(ワ)3928号 控訴審令2(ネ)211号
を素材としているが、原告、被告のやりとりは全て筆者の創作である。

 

人物イラストは「いらすとや」(https://www.irasutoya.com/)を利用しています。

 

■ 登場人物
・株式会社夢工房(裁判での被告)
意匠権侵害物語1
・夢工房が依頼した弁理士
意匠権侵害物語1
・株式会社ゼット
意匠権侵害物語1
・裁判官
意匠権侵害物語1

■ 事件の始まり
*警告書
 夢工房は、以下の形状のトレーニング器具を販売していました。
 そこに、ゼット社から「貴社が製造・販売するトレーニング器具は、当社が保有する意匠権を侵害する。製造販売を停止せよ。」という警告書が届きました。
 夢工房が販売していた商品の形状は、図1のものであり、ゼット社の登録意匠は図2のものでした。

 

【図1】
正面図
意匠権侵害物語1
背面図
意匠権侵害物語1
【図2】
被告製品

 

 

意匠権侵害物語1

 

 

困ったなあ。
確かに似ている。別に、美しいとは思わないし、こういうものにも意匠登録があるとは考えなかった。
謝り、販売をやめるしかないのかなあ。
でも、弁理士さんに相談してみよう。

 

意匠権侵害物語1
確かに、似ていますね。
でも、意匠権侵害になるかどうかは、パット見て似ているかどうかでは判断されません。登録された意匠の、どこに新しさがあるか、が重要です。
この意匠の出願前に、近似し対象があるかがポイントです。私は登録意匠を調べますが、社長はインターネットの情報を探してください。

 

このやりとりの後、以下の意匠(図3)が見つかりました。
この意匠は、パッド片の構成,左右対称であること,左右に4か所,上下に2か所の切込み部が設けられていることにおいて共通しています。

意匠権侵害物語1
いいものが見つかりました。
パット見て似ていると感じる要因は、「パッド片の構成が,左右対称であること,左右に4か所,上下に2か所の切込み部が設けられていること」に起因しますが、この点は以前からあったのであり、ゼット社の創作ではないということができます。
もっと、細かいところまで観察して、類似かどうかを判断することになります。おそらく非類似でしょう。
意匠権侵害物語1
そういうように考えるのですか。
意匠が類似しているかどうかは、パット見た感覚で判断するのではないのですね。
登録意匠のどこに、以前の意匠とは異なる新しさがあるかを見極めることが必要なのですね。
ありがとうございます。対抗します。

■ ゼット社は訴訟を提起した。

 

■ 裁判所の判断
意匠権侵害物語1
以上のとおりこれら3意匠を対比し,本件意匠の権利範囲が公知意匠であるヒラタ意匠(図3)に及ぶことがないことに鑑みれば,その権利範囲は,ヒラタ意匠に近い被告意匠にも及ばないと解すべきである。
以上のように,本件意匠は,躍動感や力強さを感じさせる機械的,幾何学的な意匠であるのに対し,被告意匠は,自然界に存在する羽根を想起させるやわらかで軽快な印象を与える意匠であって,両者が与える美感の差異は大きく,この点は,前記要部の共通点が存することによる美感の同一性を上回ると認められ,全体として評価すると,本件意匠と被告意匠が与える美感は,需要者において区別可能な程度には異なるということができる。

 

■ 夢工房勝訴
意匠権侵害物語1
社長の言葉
・意匠登録は、美しいと思うものだけでなく、あらゆる物にあるのですね。気をつけなければ。
・意匠が類似しているかどうかは、見た目だけで判断してはいけないのですね。登録意匠の「新しいところはどこか」を見極めることの重要性を知りました。
・弁理士に相談していなければ白旗を揚げていたと思います。専門家の重要性を知りました。

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