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基本的構成態様と具体的構成態様の仕分け

意匠の類否判断において、意匠の構成態様を「基本的構成態様」「具体的構成態様」に分けて評価する手法がとられます。基本的構成態様とは、意匠の骨格をなす態様である、と説明されますが、両者の仕分けを形式的に行うことはできません。そして、基本的構成態様に相違がある場合は「非類似」という結論に導かれることが多いので、類似を主張する者と非類似を主張する者とで、何が基本的構成態様であるかが争われます。

 

大阪地判令和2年5月28日(平成30年(ワ)第6029号意匠権侵害差止等請求事件)では、この仕分けについての裁判所の判断が詳細に記載されていますので紹介します。
この事案における原告の登録意匠を図1,被告意匠の一例を図2に掲げます。結論は「類似」。高裁(大阪高判令和3年2月18日)でも支持されています。
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【図1】
構成態様1
【図2】
構成態様2

■ プレートについて
構成態様3
本件意匠の構成態様に含まれる「プレート」とは,(略)平面及び正面の表面部分と本体との間に溝部が設けられることによって,平面及び正面の表面部分側に,略全面に渡って一定の厚みで形成された薄い1枚の板状の部分であって,略全面に渡って平坦であるとともに,背面図,左側面図及び右側面図(さらに,本件意匠公報の各参考斜視図も)から明らかなとおり,平面から正面へと?がる角は側面視円弧状に湾曲している。このプレート部分は,上記のような配置及び形状から,本件意匠を視認する者において本体や溝部とは明瞭に区別して把握されるものである。このことに鑑みると,プレート部分は,独立の構成として特定するのが相当であるとともに,本件意匠の骨格的な形態をなすものとして基本的構成態様に位置付けるべきである

■ プレートの正面側は、底面前方端まで入り込むように形成されており、正面から底面へと繋がる角は側面視円弧状に湾曲している点

 

構成態様4
本件意匠公報記載の図面は,各面の名称等から,本件意匠に係るデータ記憶機を縦置きすることを前提とするものと理解されるものの,本件意匠の構成そのものからは縦置きに限定すべき要素は見当たらない。本件意匠に係る物品であるデータ記憶機においては,縦置きのみならず横置きでの使用も一般的に行われていると見られる。そうである以上,本件意匠の構成態様の認定に当たっては,横置きの場合をも念頭に置き,側面視により認められる形態についても具体的に認定するのが適当である。
もっとも,正面下端から底面への湾曲の程度等は,平面及び正面の接続部に形成されている湾曲と異なり,必ずしも大きくはない上,本件意匠公報が縦置きを前提としていること,後記のとおり,本件意匠の実施品である原告製品のほか,被告製品の宣伝広告等における商品画像及び宣伝文句は,縦置きがより一般的な使用態様であることを念頭に置いたものと理解されることなどに鑑みると,本件意匠の正面下部から底面へかけての部分の構成は,本件意匠における骨格的な形態として位置付けるべきものとまではいえない。したがって,本件意匠の構成態様のうち上記部分に関しては,基本的構成態様ではなく具体的構成態様と位置付けた上で(略)認定するのが相当である。

■ 平面及び正面には、各面の全幅に渡りプレートが形成されている。また、溝部は、プレートと本体の間に設けられている点。
構成態様6構成態様5

 

本件意匠において,被告意匠との対比の前提として構成態様を把握するに当たり,本体側面の背面及び底面に接する辺に溝部が設けられていないことを取り上げることは相当である。もっとも,溝が設けられていないことにより,本体側面は,背面及び底面に接する辺に至るまで平坦な面として連続していることになるから,この点をもって特徴的な構成とまではいえない。このことと,「プレート」が「平面及び正面」に形成されていることが基本的構成態様として位置付けられることとを併せ考えると,本体側面の背面及び底面に接する辺に溝部が設けられていないことは,本件意匠における骨格的な形態とまではいえず,具体的構成態様として位置付けるのが相当である。

■ プレートは略全面に渡って平坦であって、プレートの平面から正面へと繋がる角は、側面視円弧状に湾曲している。一方、プレートの平面から背面に繋がる角は直角に折れ曲がっている点。

 

構成態様7
上記構成態様は,背面に関わる形態であると同時に平面にも関わる形態であり,かつ,基本的構成態様に位置付けられるプレートの一端に関わる形態でもあること,平面から正面へと繋がる角が側面視円弧状に湾曲していることと対になる関係にある形態であること,左右の側面視及び正面左右の斜め方向から見ることにより容易に把握し得るものであることを踏まえると,本件意匠における骨格的な形態と見ることができる。したがって,上記部分は基本的構成態様と認めるのが相当である。

■ プレートの正面側の正面視における下端よりもやや上の位置に開口部が設けられ,開口部の上に立て筋が設けられている点。

 

構成態様8
この構成態様は,本件意匠の正面下端側やや上部の位置に設けられた構成にすぎず,その形状及び大きさも併せ考えると,本件意匠における骨格的な形態とまではいえない。被告は,当該部分に関するデザイナーの意図を指摘するけれども,本件意匠における骨格をなす形態か否かとデザイナーの意図とは必ずしも直接関係するものではない。したがって,この構成態様は,基本的構成態様ではなく具体的構成態様として位置付けるのが相当である。

■ プレートの平面視後方には、横筋が設けられている点。

 

構成態様9
この構成態様は,本件意匠の平面の平面視後方側(背面側)の位置に設けられた構成にすぎず,その形状も,平面の全幅に渡り形成された細い1本の横筋にすぎないことに鑑みると,本件意匠における骨格的な形態とまではいえない。被告は,平面のプレートの「のっぺり感」という質感との関係を指摘するけれども,「のっぺり」すなわち「起伏がなく平らなさま。変化に乏しいさま。」という形容が主観的抽象的であることは措くとしても,上記形状に鑑みると,平面のプレート部分に係る構成の全体的な印象を左右するほどのものとはいえない。したがって,この構成態様は,基本的構成態様ではなく具体的構成態様として位置付けるのが相当である。

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