レガート知財事務所は、「知的財産」を通じて、企業の経営を考える事務所です。

改正意匠法の概要

改正意匠法が20年4月1日から施行されます。
この改正は、以下の項目を含んでいます。
(保護対象の拡充)
1.画像の意匠
2.建築物の意匠
3.内装の意匠
4.組物の部分意匠
5.一意匠の捉え方の見直し(審査基準)
 (保護の強化)
6.関連意匠制度の見直し
7.存続期間の延長
8.間接侵害規定の見直し

画像の意匠

1.新しい画像意匠保護の枠組み
画像意匠の大きな変更点は、
ア)物品以外に投影される画像も登録の対象になる。
 例えば、時刻表示が壁面に投影される時計の画像も登録できます。
イ)「物品」の制約から解放される。
 スマホにアプリを取り込んだ「冷蔵庫の温度制御機能付き電子計算機」として登録されていた画像は、物品「電子計算機」という縛りから解放され「冷蔵庫の温度制御用画像」として登録できます。そして、この画像が「リモコン」に表示されても「冷蔵庫自体」に表示されても、侵害が成立することになります。
ウ)物品にインストールされない画像も登録の対象になる。
 例えば、ネットに接続されて表示されるルート検索の画像や、ナット販売サイトの画像など。
エ)画像の部品が登録の対象になる。
 例えば、温度表示用の画像、スイッチ機能を持つアイコンの画像など、汎用性のある画像。

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画像1
画像2

 

2.対応
上記ア)イ)は、登録対象の拡大や登録手法の変化により、他人の意匠を侵害していないかどうかの調査に影響を与えま。従来よりも慎重な調査が必要になります。
これにもまして重要なのがウ)エ)です。
ウ)に関しては、現在、ネット事業者が使用している画像はダウンロードされないので、意匠保護の枠外です。ネット事業者は、自己のサイトで使用する画像について意匠を調査したり、意匠登録をしたりということをしていません。
法改正により、ダウンロードされ得ない画像も登録の対象になるので、従来意匠と無縁であった事業者も、意匠法の世界に無関心ではいられない、ということです。今から社内体制を整備しておく必要があります。
エ)に関しても、現在意匠制度と無縁である事業者が、意匠の世界に取り込まれることになります。例えば、アイコンの製作に特化した仕事をしているデザイナーです。そして、調査の重要性が高まります。

建築物の意匠

1..建築物
審査基準では、「建築物」を広く捉えています。建築基準法でいう「建築物」に加えて、橋梁やダムなどの土木構造物も「建築物」に含まれるものとして呈示されています。創作の対象をできるだけ広く取り込みたい、というのが提案者の考えのようです。
 他方、「建築物」は人工構造物であることが要件とされ、
  @ 人工的でないもの
  A 人の手が加えられているものの、自然物や地形等を意匠の主たる要素としているもの
  B 土地そのもの又は土地を造成したにすぎないもの
はこの要件を満たさないものとされています。
上記@の例として「自然の山、岩、樹木、河川、滝、砂浜など」が例示されていますが、「植物や石等の自然物であって、建築物又は土地に継続的に固定するなど、位置を変更しないものであり、 建築物に付随する範囲内のものについても、建築物の意匠の一部を構成するものとして取り扱う」』とされています。
上記Aの例としては、「スキーゲレンデ、ゴルフコース、自然物を主たる要素とする庭園など」が例示されています。

 

2.建築物のとらえ方
意匠法は「一物品一意匠一出願」を原則としています。「一物品」とは原則として「一つの物理的な塊」です。
「物品」の意匠についての「一物品」の考え方の緩和を受けて、審査基準案では、複数の建築物の集合体であっても、「学校の校舎と体育館」、「複数の棟からなる商業用建築物」などは「一つの意匠」として扱うこととされています。

 

3.付属物などの扱い
審査基準では「社会通念上、建築物の内部又は外部に、継続的に固定して使用し、任意に動かさないものについては、建築物の一部を構成するものとして扱う。」とされています。例えば映画館の座席のように固定されている什器などや、屋外の固定された付属物「ウッドデッキ、べデストリアんでき、門柱、敷設ブロック」が例示されている。)は建築物の一部を構成することになります。
 他方、「任意に動かすことのできる」テーブルや椅子、そして自然物は建築物の意匠を構成しないとされています。

 

4.建築物の内部
建築物の内部は「建築物」の部分意匠として登録の対象になります。このとき、建築物の一部を構成すると認められる『社会通念上、建築物の内部又は外部に、継続的に固定して使用し、任意に動かさないもの』は含めることができますが、『任意に動かすことのできるもの』や自然物を含めることはできませ。
「任意に動かすことのできるもの」を含む建築物の内部は、「内装の意匠」として登録の対象になります。

 

5.対応
ハウスメーカー以外の建設事業者や土木建設事業者も、、施工前に意匠権の調査をする必要が生じます。意匠登録は「今までにない形状」であれば、美的に優れたものでなくとも登録されます。調査対象になる登録意匠が少ない内に、社内体制を作り上げることをお勧めします。また、建物の設計者・デザイナーと施工業者が異なる場合、契約書」において意匠に関する権利の帰属や責任の所在を定めておくことも重要です。

内装の意匠

1.内装の意匠の保護の枠組み
意匠法8条の2は以下のように規定しています。「店舗、事務所その他の施設の内部の設備及び装飾(以下「内装」という。)を構成する物品、建築物又は画像に係る意匠は、内装全体として統一的な美感を起こさせるときは、一意匠として出願をし、登録を受けることができる。」
「内装の意匠」は「組物の意匠」(8条)の類型という扱いです。しかしながら、「配置」が保護の対象とならない「組物」と異なり、「内装」は什器などの配置も意匠を構成する要素となります。このように解釈する根拠は「統一的な美感」に求められるとのことです。

 

2.施設の内部であること
条文では「店舗、事務所」が例示されていますが、限定的に解されるものではなく、『人が一定時間過ごすためのもの』であれば広く含まれると説明されており、『組み立て式の簡易店舗や事務所、鉄道車両や旅客機、客船』」のような動産も含まれることになります。
「内装の意匠」においては、「施設の内部」であることが必須の要件です。しかしながら、この要件も緩やかに解釈されることとされており、『施設の内部が施設の開口部及び施設の外部に連続している場合等は、施設の内部に付随する施設の外部が含まれていてもよい。』とされ『店舗正面のファザードやディスプレイデザイン』が例示されています。

 

3.複数の意匠法上の物品、建築物又は画像により構成されるものであること
一般には、「施設」である「建築物」と家具や什器等の「物品」で構成されることになります。「建築物」の内部だけでは「内装」とは言えません。これは「建築物の意匠」として扱われます。また、内装の意匠を構成するものは「意匠法上の物品、建築物又は画像」のみであり、これ以外は原則として内装の意匠の構成要素になりません。自然物は排除されます。
しかし、内装のデザインにおいて植物が利用される場合があります。この実情を考慮し、植物などの自然物であっても『建築物又は土地に継続的に固定するなど、位置を変更しないものであり、建築物に付随する範囲のものは建築物の意匠の一部を構成する。』とされています。
例えば、施設内に植えられた自然の木や日常的に移動することが難しいほどに大きな鉢に植えられた木は許容されることになります。
この取り扱いは、11月20日のワーキンググループ直前に決まり、併せて「建築物」の意匠における自然物の扱いも緩やかになりました。

 

4.画像の扱い
意匠法上の「画像の意匠」とは、いわゆる「表示画像」と「操作画像」であり、単なる装飾目的の画像は含まれません。施設の内部に「温度計の画像」(表示画像)が表示されている場合や、「エアコンを操作するための画像」(操作画像)が表示されている場合は内装の意匠を構成します。
しかし、壁面を彩るための画像が表示されている場合、この画像は意匠法上の画像ではありません。このような画像は「施設の内部の模様」として扱われます。

 

5.統一的な美感を起こさせるものであること
一部に「統一的な美感」のハードルを高くすべきである、という意見もありますが、ハードルを高くする予定はないようです。審査基準では「統一的な美感を起こさせるものの例」が複数掲げられていますが、要は『内装の意匠全体が一つの意匠としての統一的な創作思想に基づき創作されており、全体の形状等が視覚的に一つのまとまりある美感を起こさせるもの』というこのようです。

 

6.対応
「内装の意匠」は「建築物の意匠」以上に、多くの事業者に影響を与えるものと思われます。店舗や事業所で接客をする業態であれば、あまねく関係してくると思います。
「組立家屋」という先例がある「建築物」と異なり、「内装」は完全に新しい分野であり、出願の方法も類否判断も確立していません。しばらくは、試行錯誤が続くことになると思います。
内装の意匠は建築物に比べて創作される数が非常に多く、事務所の内装などは個別対応であって外部に公開されないという特徴があります。また、特許を通じて知的財産権と馴染んできた建築業界と異なり、知的財産権と拘わった経験のない事業者も多いと思います。
調査、出願に対応できるように社内体制を作ることが重要なのはもちろんですが、競合企業がどのように意匠出願しているのかを中止することも重要だと思います。

関連意匠

1.新しい 関連意匠精度の概要
従来の関連意匠制度は、自己の登録意匠(本意匠)に類似する意匠を「関連意匠」として登録できるが、「関連意匠」に類似し「本意匠」には類似しない意匠は登録を受けることができませんでした。関連意匠の出願可能な期間も限定的でした。

新しい関連意匠制度は、以下の特徴を持っています。
  @ 関連意匠に類似する意匠(類似の類似)も登録できる
  A 本意匠(基礎意匠)の出願後10年間出願できる。
  B 同じ基礎意匠からつながる自己の登録意匠は拒絶の理由にならない。

 

関連意匠について規定している意匠法第10条。ものすごく条文が増えて、一読しただけでは訳の分からない条文になっています。
その中から、必要最小限の情報を以下に記します。

 

2. 類似の類似も登録できる
従来は、本意匠に類似する意匠しか、関連意匠として登録を受けることはできません。「本意匠には類似しないが関連意匠に類似する意匠」は、登録を受けることができません。
そのために、自己の意匠を改変した意匠を出願すると、自己の意匠に類似するとして登録を受けることができない場合がありました。
改正法では、関連意匠に類似する意匠も「関連意匠の関連意匠」として登録を受けることができます。したがって、「本意匠」(改正法では最初の本意匠を「基礎意匠」といいます。)から「関連意匠」が連鎖して登録されることになります。

 

3.本意匠の出願から10年間出願できる
従来は、関連意匠(自己の登録意匠(本意匠)のみに類似する意匠)を出願できるのは、本意匠の登録公報の発行の日前までです。
改正法では、基礎意匠の出願から10年間出願できます。

 

4.自己の関連意匠は拒絶の理由にならない
従来は、以下のような「拒絶の連鎖」が生じていました。
「意匠Aを登録」→「意匠Aを実施」→「意匠Aに類似する意匠Bを出願」
→「意匠Bを実施」→「意匠Bは意匠Aに類似するので拒絶」
→「意匠Bに類似する意匠を出願」→「意匠Bに類似するので拒絶」
改正法では、基礎意匠が共通する自己の登録意匠及びこれに類似する意匠は、拒絶の理由になりません。したがって、上の「意匠B」は登録されます。

 

5. 自己の意匠とは
問題になるのは「自己の意匠」とは何か、です。
出願人・権利者自身が登録意匠を実施していた場合が「自己の意匠」に当たることは明らかですが、他人が実施している場合です。
実施許諾をした者が実施している場合、その社が販売する意匠は「自己の意匠」になる。しかし、自己が意匠権又は意匠登録を受ける権利を有していなければならない。第三者による意匠権を侵害する物品が存在する場合、それは「自己の意匠」ではなく、拒絶の理由になる、というのが審査基準の考えです。

 

6.対応
安心してはいけない、権利の放棄は慎重に、そして既登録の意匠と類否がはっきりしないものは出願する、ということになります。
10年間出願できる、といっても登録されるためには「自己の登録意匠・類似する意匠」以外に類似する意匠がないことが条件です。
新たに出願する意匠が「自己の登録意匠」に類似するとしても、他人の公知意匠に類似していれば登録を受けることはできません。
10年間は、自己の意匠は登録の障害にならない(これも全てではありません)が、他人との関係では注意が必要です。10年に安住してはなりません。